中々分かりづらい、と言うか基本的に日常理解する必要が無いのが法律ごと。但し逆に言うと何かあった時に必要だったり高くそびえ立つのもまた法律を始めとする決まりごとだったりします。
昨年春、突如世界を襲った新型コロナ。初めての緊急事態宣言を受け一斉に営業停止を余儀なくされたライブハウス、ダンスクラブは次第にその中でも何とか発信し存在自体を持続させるべく、この状況下でもマネタイズの方法は無いかと模索し(コロナ禍ならではの新規事業に対する国/地域からの助成にも肩を押されながら)現場からの配信事業を考え、機材やノウハウと向き合って行きました。
不慣れな中スタートした配信事業は次第に全国各地のライブハウスから一斉かつ連日配信というその総量の多さに、見る側に配信疲れと呼ばれたジレンマをも起こしたが、有名無名に関わらず次第に試行を凝らした配信はその意味合い含め今のライブ界に定着しつつあると言えるでしょう。
一方でダンスクラブやDJの自宅からのライブDJ配信はと言うと、微妙な都市伝説含めファジーな問題が持ち上がっていました。「アンダーグラウンドな曲だけなら配信出来るけど、山下達郎とかかけたら速攻バンされるよ」、「YouTubeは速攻バンされる。インスタライブも危なくなって来て今はTwichが1番安心かな〜」と言ういわゆるバンされる問題。つまり各サイトに埋め込んであるコンテンツIDにプレイする曲が引っかかった瞬間に「○○○○ Recordsが原盤権を持つこの楽曲は事前申請無しに配信に使用する事を固く禁じます」と言う指令が速攻発動され、バン=配信強制終了と言う事が続くようになって来て、バンされづらい配信サイト探しとイタチごっこと言う状況にまでなって来ました。
音楽ってのには大きく言うと2つの権利があるんです。
ひとつはその曲を書いた、作詞家/作曲家の権利。ご存知の様にこれは著作権と言い、一般社団法人日本著作権協会(JASRAC)や株式会社NextToneと言う所が管理。こちらは現在多くの配信サイト (もちろんTVやラジオなどとも) ともそれぞれ配信時に関する取り決め=契約を交わしています。よく権利は包括契約になってるから大丈夫みたいよ、なんて言われてるのは実はこの著作権のお話。
もう一つの権利はその曲を作る際にかかった費用 = スタジオ代、ミュージシャンの演奏料、エンジニアからインペグから写譜屋さんからコピー代やお弁当代まで。曲が完成するまでの予算一切を持った会社が所要する原盤権 (著作隣接権と言います)と言う、録音された音に関する権利。一般的には発売するレコード会社やアーティスト所属の事務所が所有しているケースが大半。
バンドをライブハウスに呼んで、例えばカバー曲を演奏してもらい配信するとします。この場合にはその曲のCDやレコードからの「音源」は使わないので原盤権者であるレコード会社などから許諾を受ける必要は無く、「著作権」について包括契約している配信サイトであればそのまま問題無く配信可能。例えばYouTubeとJASRACは包括契約を交わしているので、YouTubeに(JASRAC登録曲の)カバーをアップするのは問題無く合法。「歌ってみた」がアップ可能なのはそうした理由からです。
ところが原盤権は中々、特に配信なんかには手強い権利で、包括契約なんてのは基本的に無く、一曲ずつ事前に申請し対価を支払い、事前許諾を受けなければ使用出来ない仕組みなんです(著作権法97条、商業用レコードの二次使用料を受ける権利)。先ほどの例で言うと原盤権についてはYouTubeはノータッチなのでDJで使用するレコードやデータ=「誰かが原盤権を持つもの」をDJプレイと言ってもアップしたり流したりするのは違法(海外では報酬請求権という法整備など様々)。
そもそもプレイ中にその流れを体感して次の曲をその場その場で決めていくDJと言うアートフォームとは相入れずらい法律になっているのですが、またその使用料というのが今年僕が聞いた話でも1曲3万円とか4万円とかいう金額になり、DJのLive配信で全曲許諾を取っていてはとても収益を上げられる様な仕組みでは無いのが現実。
そこで、こんな状況でさらに配信もできないというのでは日本からプロDJが居なくなります!という危機感を日本中の原盤権者を束ねる一般社団法人日本レコード協会(以下レコ協)に掛け合いに行ったのが昨年の6月の事でした。
そうしたらなんと!僕の予想を大きく超え、直ぐにレコ協の方々が真摯にDJやラッパー(ラッパーがLiveの際に使うバックトラックも基本レコード会社が原盤権を持っています)の現状を理解し、動いてみましょうと言ってくれたんです(実際に今、そうした日本の法律下では例えばYouTubeで「プラスティックラブ」が何億回再生されようが原盤権へ対価を主張できない(もちろんバンは出来る)今の状況も後押ししてくれたのかとも勝手に思っています)。
そこからはもうレコ協に通い続けました。その中でおよそ1年かけて具体的に決まっていった事が以下。
半年間、DJ達を救うという時限的な措置の元、特別な許諾を許す。
使用する音源は国内原盤のものに限る(海外原盤はそれぞれ本国との許諾が必要で1年では動かせられず懸案事項に)。
プレイするDJは極端にオリジナルから変化させ原盤のイメージを悪くさせる様な事のないプロと認定されたDJのみ。
配信するサイトは全く新規に一般社団法人JDDAが立ち上げたものからとする。
原盤使用料は毎月一定の金額をレコ協に支払う(こちらはレコ協もコロナ禍で苦しんでいる業界への支援金として使用)。
著作権使用料は半年間の包括契約としJASRACへ、管理楽曲の使用料は個別のNextToneへ支払う。
そんな仕組みの元、大手メジャーレコード会社18社、一般社団法人日本音楽事業者協会 (音事協)、一般社団法人日本音楽制作者連盟(音制連)など音楽事務所の皆様の賛同を得て(諸条件はありますが)原盤権も(もちろん著作権も)正式に許諾を得たDJのLive配信がスタートすることになったんです。更にこの配信では著作権についてはJASRACに担当者までつけて頂き、曖昧な包括でなくプレイされた全曲開示し全ての楽曲の作詞者/作曲者へ100%使用料が行く事にもしてあります。
プロDJだけなんだ(そもそも誰が決めてるの?)とかへのツッコミや、もちろん細かい点に憤慨される様な方も多いと思います。ここでそこへの思いまで書くとキリがなくなりそうなので別の機会にしますが、今、『別にやれているDJ配信』になんでそこまでこわだるのかという点についてだけ最後に。
『別にやれてるじゃん!』。。。。そんな事ってつい最近まで経験していませんでしたか。僕は自身中心の一人ともなってその改正に動いてきた風営法とこの原盤権の事がどうしてもダブって見えてしまうんです。『やれている』という今の状態、灰色のものはいつでもあちらの都合で黒にできます。またそんな灰色状態のものに大きなスポンサーが付きますか、ましてや官民でのイベント(例えば嫌な言い方だけどオリンピック)が成り立ちますか? 基本アンダーグラウンド一途な僕ではありますが、そもそもアンダーグラウンドってのも全体、オーバーグランドが豊かに広がって行かないと、そこからのアンチだったりもするので面白くなって行かないと思ってて、そんな全体作り、大事だと思ってるんです。
DJのLive配信というものを事業化していく時に、いやそれ以前にネットというものに音楽が流れ始めた時から、どうしても白黒つけていか無くてはいけない問題だと僕はシリアスに思い続けてきました。もちろんそれは勝手な思いで、ある方々には反感を買う様なことからも知れません。
なのでそれなりの気概で向かっています。半年間マネタイズも出来ない状態なのでこの事業の為にこんな時期に皆さんの想像を超える予算をJDDAは注ぎ込んでいて、全くの新規のサイト制作、J-WAVEのサーバー使用料、毎回の撮影/配信班への料金、DJへの(寸志ですが)出演料、雑費全てを支払い運営します。どうやってその資金を取り返すのかなんて今は考えてさえいません。この状況をみんなが後押ししてくれ、この国のややこしい原盤権問題が少しでもシンプルになっていき、全てのサイトなどへの門戸をも開けられる様なきっかけとなって行ったら最高だとのシンプルで強い思いに駆り立てられ走っているだけです。
様々な思いも込めつつシンプルに。1月半ばまでの半年間、金曜、土曜の夜に「大手メジャーレコード会社18社を始め、音事協/音制連など原盤権者の皆様の正式な賛同を得た、著作権も100%権利者にお返しするDJのLive配信=Japan DJ.net -Online-」続けます。ダサい言い回しですが、一般社団法人JDDAの理事を始めとする全メンバー、総力を上げ立ち向かっていく所存です。まずは皆さんに見て頂くというご賛同が(毎月各所へ報告していきます)このアクションを強く、未来へ繋げていきます。是非、宜しくお願いいたします。